アンティークボトル「るり羽」
明治創業白髪染めの歴史について調べてみよう!
突然ですが、ボトルディギングという界隈があるのをご存じでしょうか。
主に明治から昭和初期にかけての古いゴミ捨て場(ハケ)や海岸、山中などを掘るなどし、レトロなガラス瓶や陶磁器などを探し出す趣味および活動のことです。
気泡や独特な色合いを持つレトロ瓶を探すというのは、いかにも宝探しのようで面白そうなのですが、うちはそこまで手広くやっているわけでもありません。
…しかし田舎の小路を歩いていて、道端の草むらにキラリと光る不燃ゴミが目に入れば、まぁ?あくまで奉仕活動として清掃を行うことは、徳を積むという観点からもやむを得ないのではないでしょうか。
そんなこんなで今手元にあるのがこちら。
るり羽のガラス瓶です。
奉仕活動中は、これがいったいどういうものなのかさっぱりわかりませんでしたので、家に帰って調べてみることとしました。
とりあえず家の中で洗うのやめてもらえませんか?
1.概要~るり羽とは
るり羽 は明治42年に発売された白髪染です。
当初大阪の石井成功堂から発売されていましたが、山発商店が海外への輸出品としても取り扱っていた関係からか、昭和12年に合併。
晴れて山発商店のロングセラー商品となりました。
また、合併前後でデザインが変わっているとのこと。
ホーユーのヘアカラーミュージアムで2024年に企画展が開催され、るり羽の展示内容が図録で要約されていますので以下一部引用します。
『るり羽』は1909年(明治42年)に大阪の石井成功堂から発売された白髪染。
当時メリヤスなど繊維の製造輸出業だった山発商店が、インドに輸出するための白髪染を探しており、貿易部門が『るり羽』の輸出を手がけたことをきっかけに、山発商店は『るり羽』をはじめとする白髪染めの販売にシフトし、昭和12年に石井成功堂を合併した。
石井成功堂製造の『るり羽』と山発商店製造の『るり羽』では「る」の意匠が異なっている事がわかっている。
『るり羽』は大瓶・小瓶の2品に絞り、特にコストの中心である容器は大量生産できるガラス瓶を使用し、コストダウンを行った。
画像までは引用しませんが、山発時代のホーロー看板、木製看板、商品外箱、幟旗、雑誌広告が図録に掲載されており、それぞれ「る」の字が変体仮名表記(Unicode:U+1B0FA)になっています。
特に雑誌については国立国会図書館デジタルコレクションからの引用で、出典まで表記されていますので権威性もバッチリ!
- 『協和 : 満鐵社員會機關誌』満鐵社員會,1939-03.
- 『満州経済』満州経済社,1942-01.
木製看板にはなぜか「大阪 合資會社石井成功堂」と書いてありますが、トレードマークの孔雀が描かれていますので、図録の説明どおり山発時代のものなのでせう。
また図録の内容が動画でもまとめられていましたので、こちらも引用させていただきます。
※音注意
2.販売会社「石井成功堂」と「山発商店」
発売元の石井成功堂については、残念ながら情報が見つかりません。
大事なところなのに…
概要で述べたとおり、るり羽を海外展開していた山発商店は昭和12年、石井成功堂を合併。
その後、山発商店は何度か名前を変えながらフジボウ(など)に吸収され、令和8年現在に至っています。
紡績、メリヤス関連の流れについてはANGLEの社史に詳しいですので、以下年表化してみましょう。
- 明治27年
- 山本發次郎商店が大阪市東区安土町二丁目でメリヤス肌着の製造販売開始
- 大正14年
- 商標REGAL登録完了、靴下と一部の肌着類に使用
- 昭和6年
- 法人組織に改組
- 株式会社山発商店を設立
- 資本金2百万円
- 昭和38年
- 山発工業をアングル工業株式会社に
- 山発商店をアングル株式会社にそれぞれ社名変更
- 平成14年
- 御幸グループの傘下に入る
- 平成15年
- 「アングル・ミユキ株式会社」に社名変更
- 平成24年
- 富士紡グループの傘下に入る
- 新生「アングル株式会社」としてスタート
- 令和2年
- 株式会社フジボウアパレルとアングル株式会社が、株式会社フジボウアパレルを存続会社として吸収合併
また山発の経営者であり、著名な美術品蒐集家でもあった二代目山本發次郎については、同じくANGLEのTopicsに詳しい記事が掲載されていますのでリンクを張っておきます。
白髪染めの話が1ミリも出てこないんですけど。
だよね。
山発商店のその後については、ヘアケア製品を扱うHenkelの沿革にも記述があるんだ。
前後でまとめている年表だけ見ても
- 山発工業
- 山発商店
- 山発産業株式会社
3つの社名が出てくることから、多角経営を行っていた事がわかります。
ですので、次にHenkel側の社史も年表化してみましょう。
- 明治27年
- 創業者山本発次郎がメリヤス問屋「山発商店」を始める
- 明治44年
- 白髪染め「るり羽」の販売を開始
山発のロングセラー商品となった- 平成12年
- ヘンケルが山発産業株式会社を買収
- ライオン株式会社の資本参加
- 日本に合弁会社「ヘンケル ライオン コスメティックス株式会社」が誕生
- 日本での一般消費者向けコスメティックス事業に本格参入した
- 平成15年
- ライオン株式会社との合弁会社契約を解消
- 資本比率を変更
- 平成17年
- 「ヘンケル ライオン コスメティックス株式会社」から「シュワルツコフ ヘンケル株式会社」に社名変更
3.年代の推定
ここまでのところで出てきた、アンティークボトル「るり羽」の年代を推定する材料として使えそうな情報を列挙してみます。
- 明治42年:るり羽が石井成功堂から発売された(ホーユー)
- 明治44年:白髪染め「るり羽」の販売を開始(Henkel)
- 昭和12年:山発商店が石井成功堂を合併した(ホーユー)
- 石井成功堂時代の「る」と山発時代の「る」では意匠が異なっている(ホーユー)
- 山発時代の「る」は変体仮名表記(Unicode:U+1B0FA)であった(ホーユー)
また、他のコレクターさんの写真から、
- 裏側のエンボス文字が「定容(右横書き)」「定量」の2種であり、「定容(右横書き)」の方が古い
- 蓋が「コルク」「スクリューキャップ」の2種であり、「コルク」のほうが古い
- 色はまちまち
などの違いがあることがわかります。
逆に、わからない点として
- 「定容(右横書き)」「定量」変化の時期
- 「コルク」「スクリューキャップ」変化の時期
- 製造、販売終了の時期
などがあり、これについてはもうどうしようもありません。
あらためて手元にあるレトロ瓶「るり羽」を見てみると、
- 「る」が変体仮名表記(Unicode:U+1B0FA)
- 側のエンボス文字が「定容(右横書き)」
- 蓋が「コルク」
- 底面に「1」のエンボス文字
- 透明ガラス
などの特徴があります。
以上のことから、私の手元にあるアンティークボトルは、
昭和12年以降の山発商店時代
なかでも比較的早い時期に製造販売された白髪染め「るり羽」の容器
であることがわかりました。
製造販売終了、形状変更の時期が不明ですので、もうこれ以上は絞り込めません!
ここまで読んでくださりありがとうございました。