旧江尾発電所のローリングゲート【中国電力系】
新川平発電所へと受け継がれたレア水門

江府町洲河崎にある一反ダムは、大正8年に建設された発電用取水ダムです。
旧江尾発電所の取水ダムとして長いこと活躍してきましたが、現在は新川平発電所へと受け継がれいまだ健在。
なんと100歳超えの現役土木構造物です。
本記事では、日野川流域で使われ続けてきた「一反ダムのローリングゲート」という不思議な水門を紹介しつつ、旧江尾発電所と新川平発電所という二つの水力発電所を通して、その来歴を整理してゆきます。

一反ダムのローリングゲート
2023-10-14
所在地
日野郡江府町洲河崎
所有者
中国電力
竣工
大正8年(1919)
河川名
日野川
取水位
152.38m
堤高
4.5m
堤長
84.21m
最大取水量
31.00㎥/秒

現地の水利使用標識・図面、中国地方電気事業史、江府町史、とっとり文化財ナビ、電力土木技術協会の情報を参考とさせていただきました。

所長 さて、何と言ってもここの見どころは洪水吐に使用されているローリングゲート。
全国的にも残り少ないレアギミックとして一部界隈で有名です。
紹介については、けっこういろんな方が写真をアップしておられますが、うちの強みと言えば…地元だからということで、アホほど写真を撮影できることです。
ちょっとでも変化があればふらっと立ち寄ってパチパチ撮るだけですので、中にはあられもなく開門している姿もあったりますよ。
そのへんも楽しみにしつつ、以下へお進みください。

1.ローリングゲートとは何ぞや

一反ダムのローリングゲート
一反ダムの三面図

まず今回のメインディッシュであるローリングゲートについて説明します。
ローリングゲートとは、円筒状の扉体が回転しながら上下することで開閉する水門の形式の一つで、主に古いダムの洪水吐きで使われています。
扉体にローラがついており、摩擦抵抗を減らして軽い力で開閉できるのが特徴ですが、構造が複雑でメンテナンス性が悪いため、最近では数を減らし、板状のローラーゲート(名前で混同しやすい)や扇形のラジアルゲートなどに置き換えられることが多い、繰り返しとなりますがレアな水門です。
大事なことなのでもう一度言います。
レアな水門です。
ラック&ピニオンのかみ合いで斜めにゴロゴロと上下する動きが面白いだけでなく、回転体であるピニオンがゲートそのものであるという変態的な構造も見どころです。
ちなみに私は動くところを見たことがありません。
※開ききったところに遭遇したことは多々、後述

2.場所

鳥取県日野郡江府町洲河崎

一反ローリングゲートのマップ
地図を読み込んで操作する
出典:Google マップ / 地図データ ©2025 Google

3.一反ダムについて

まず一反ダムという名称は江府町史での記述によります。
最後のほうでまとめますが、大正8年に江尾発電所の取水堰堤として、山陰電気が施主となって建設されました。
年代は下り江尾発電所は運転が終了。
昭和54年、新川平発電所の運転開始に伴いその取水施設として再度活躍の機会を得ることとなります。
そのため現在は新川平ダム(現地モニター電話)、新川平発電所取水ダム(電力土木技術協会)などと呼ばれています。
何故リビルドされなかったのかは全くもって不明。
緒元やその他の情報については冒頭からの繰り返しとなりますが、

  • 一反ダムとローリングゲート
    江府町史より
  • 一反ダムとローリングゲート
    平面図など
  • 一反ダムとローリングゲート
    水利使用標識
所在地
日野郡江府町洲河崎
所有者
中国電力
竣工
大正8年(1919)
河川名
日野川
取水位
152.38m
堤高
4.5m
堤長
84.21m
最大取水量
31.00m^3/秒

それではここからしばらく四季折々の写真をどうぞ。
水害時、メンテナンス時、晴天曇天、近場をいいことにアホほど撮ってますので。

2016年9月18日(台風16号・マラカス)

よく見るとゲートが上がっています。
ちなみに撮影当時は気付いていませんでした。

2017年10月23日(台風21号・ラン)

2016年の写真を見返していて、洪水時ゲートが上がることに気づいたため台風一過パトロールに出かけました。
案の定ゲートが上がっているのですが、全越流状態で堤体が見えなくなっているのを見て「洪水吐とは何ぞや…」と微妙な気持ちになったことを覚えています。

2018年7月30日

天気が良かったのでふらり立ち寄りました。
鋼製構造物については入れ替わりもあったのでしょうが、約100年前に作られた堤体は改めて味わい深いものがあるなぁなどと考えながら。
石積みのように見える堤体は実は具の大きいコンクリートの粗骨材なんじゃないかと思っています。
もうアルカリのアの字も残っていないであろう元々つなぎ(コンクリ)の少なかった堤体が、なんで今でも形を保っているのか不思議でなりません。

2018年10月1日(台風24号・チャーミー)

台風一過、やはりゲートが上がっています。
この日は他の施設のパトロールを優先しましたので一反ダムの写真は少なめでした。
長くこの地に住んでいますが、国道や橋が冠水したのは何気にはじめて見たかもしれません。
土手などが切れなくて本当に良かったです。
ありがとう…国土交通省!

  • 一反ダムのローリングゲート
  • 一反ダムのローリングゲート
  • 2018年台風24号(チャーミー)一過 台風一過、日南町生山
  • 2018年台風24号(チャーミー)一過
  • 2018年台風24号(チャーミー)一過 台風一過、日野町本郷
  • 2018年台風24号(チャーミー)一過 台風一過、日野町本郷
  • 2018年台風24号(チャーミー)一過 台風一過、川平ダム
  • 2018年台風24号(チャーミー)一過 台風一過、川平ダム
  • 2018年台風24号(チャーミー)一過 台風一過、川平ダム

2019年6月9日

天気が良かったのでフラリのパチリ☆系。

2019年11月9日

2019年から翌年にかけてゲートが上がっているのを特に多く見かけました。
何らかの工事を行っていたようで、名目は確認していませんでしたが浚渫かなんかかな~とこの時は思っていました。
特に大水も出ていない状態でゲートが上がっていますのでダムの底が丸見えで、何やら得した気分です。

2020年11月29日

この日もゲートが上がっていたのでフラリ立ち寄りパチリ☆
よく見てみると除塵機の乗せ変えのような事をやっていたようですね。
ちなみにここの除塵機、左岸の金網越しにぼーっと堤体を眺めていると突然動き出したりします。
レールに沿って動きながら自動で一生懸命ストレーナを清掃している姿はなんとも言えず微笑ましいんスよ。

2021年8月13日(台風10号・ミリネ)

台風一過のパトロール。
左岸の町道が冠水しているのを確認しました。
こういうのを毎年何度も繰り返しているにもかかわらず健在な日野川の低堤高ダムってマジで偉いですね。

2023年10月14日

特にイベントはありませんが、しばらく撮ってなかったので寂しくなり再訪しました。
記録とはいえ写真の良し悪しに少しずつ気を遣うようになってきた時期でもあります。

4.旧江尾発電所

旧江尾発電所
2024-06-02
所在地
日野郡江府町久連
運転開始
大正8年(1919)
最大出力
1,000kW
所有者(当時)
山陰電気(株)
所有者(現在)
江府町
有効落差
75尺

平成19年(2007)土木学会の選奨土木遺産に選ばれました。
その建築様式などが受賞の理由だそうですが、建築については守備範囲外ですので土木学会さんの方へどうぞ。
それよりも水路はどこだったんだろう…
緒元については広島電気沿革史に詳しい情報がありますので以下引用します。
立法尺など現在一部業界以外では聞くことすらないような単位が出てきますので、脳内で換算しながらお楽しみください。

江尾發電所 本發電所は鳥取懸日野郡江尾村大字江尾にあり、舊山陰電氣に於いて大正五年十月起工し、大正七年十二月竣成したるものにして、旭發電所の上流にあり。
山陰電氣の合併に依り本社に歸屬したるものなり。
最大出力1,200K,V,A,を發電しつゝあり。
其の設備を擧ぐれば左の如し。

使用河川名
日野川
使用水量
255尺^3
有効落差
75尺

發電機

容量
1,175K,V,A,
電壓
1,100「ヴォルト」
回轉数
600回轉
周波数
60「サイクル」
箇数
1臺
製造者名 
日立製作所
廣島電氣沿革史より

Gallery

5.新川平発電所

新川平発電所
2021-04-25
所在地
西伯郡伯耆町荘
運転開始
昭和54年5月(1979)
発電形式
水路式
発電方式
流込み式
有効落差
53.80m
最大出力
13,800kW
水車
縦軸カプラン水車
所有者
中国電力(株)

こちらについては全然見えませんので手持ちの写真をサラッと出しておしまいにしたいと思います。
自分よく頑張ったと言いたいのは、土管連結型の余水吐きを捉えたことです。

Gallery

  • 新川平発電所
  • 新川平発電所
  • 新川平発電所 余水吐き
  • 新川平発電所 余水吐き
  • 新川平発電所 放水口
  • 新川平発電所 白水の方から

6.減水区間の発生

江尾発電所が廃止され、新たに新川平発電所が運転を開始したことにより、なんということでしょう…旭発電所が減水区間に挟まれることとなってしまったのです。
ゴチャゴチャしていますので尺を割いてもうちょい説明します。
江尾発電所は旭発電所の取水ダムより上流にありましたので、江尾発電所で放水した水を再び取水して発電に使用することができていたのですが、新川平発電所はもっと下流に出来てしまいました。
つまり旭発電所は一反ダムで取水され流量の減った日野川から更に取水する必要があるので、あまり沢山の水が使えなくなってしまったのです。
こういうのがイメージしにくいからマイマップで俯瞰できるようにしようと思ったんですね。
案の定わかりやすくなりました。
ドンピシャの俯瞰図を下に用意していますので見てみてください。
ただ、旭発電所についてはESSのプレスかなんかで読んだような気がするのですが、特に記事になっていなかった川平発電所も同じく減水区間になっています(※)。

※第100回 河川整備基本方針検討小委員会 参考資料6 日野川水系河川整備基本方針 (平成20年11月7日 国土交通省 河川局)

7.時系列まとめ

さて、ここまでのところで今回の主役である「一反ダムのローリングゲート」を、旧江尾発電所と新川平発電所という二つの水力発電所も絡めながら見てきました。
最後に、これら水力発電施設のスクラップ&ビルドとインフラの受け渡しを年表にまとめておしまいといたします。
前後の出来事については、日野川を舞台とした電力史のまとめであるこちらの年表を参照してください。

大正08年
山陰電気が江尾発電所を建設
一反ダムは江尾発電所の取水ダムとして運用開始
昭和52年
江尾発電所の運転が終了
昭和54年
新川平発電所の運転開始
一反ダムは新川平発電所の取水ダムとして転用
これにより旭発電所が減水区間となる
平成19年
江尾発電所が土木学会の選奨土木遺産受賞

それではここまでお付き合いくださりありがとうございました。
ほかにもいろいろと水力発電所を紹介していますので、どうぞ見ていってください。
それでは。ノシ